不動産取引の電子契約|重要事項説明・賃貸借契約の電子化はどこまで可能か
不動産取引の電子契約はどこまで可能か弁護士監修で解説。宅建業法改正による35条・37条書面の電子化、IT重説のオンライン化、媒介契約や賃貸借契約の電子化、相手方の承諾などの注意点と活用メリットまで、実務目線でわかりやすくまとめました。
「不動産取引は書面の規制が厳しいから、電子契約は無理」——少し前まで、不動産業界ではこれが常識でした。
ところが、宅建業法の改正により状況は大きく変わっています。重要事項説明書や契約書の電子化が解禁され、いまや不動産取引も電子契約で進められる時代になりました。とはいえ、「どの書類が電子化できて、何に気をつければいいのか」は、まだ整理しきれていない方も多いはずです。
この記事では、不動産 電子契約について、宅建業法改正で何がどこまで電子化できるようになったのか、重要事項説明・賃貸借契約・媒介契約の電子化の実際、そして注意点と活用メリットを、不動産事業者の実務目線で解説します。
この記事の結論(先に要点だけ)
- 宅建業法の改正(2022年5月施行)により、35条書面(重要事項説明書)・37条書面(契約書)の電子化が解禁された
- 重要事項説明そのものも、IT重説(オンラインでの重要事項説明)として実施できる
- 媒介契約書・賃貸借契約書なども電子化が可能で、不動産取引のオンライン完結が現実的になった
- 電子化には相手方の承諾が前提で、相手が出力・保存できる形式での提供が必要
- 印紙税の削減・郵送や来店の負担軽減など、不動産業はとくに電子化メリットが大きい
目次
- 不動産取引は「書面規制」が厳しかった
- 宅建業法改正で電子化が解禁された経緯
- 電子化できる主な書類
- IT重説 — 重要事項説明のオンライン化
- 媒介契約・賃貸借契約の電子化
- 電子化の注意点
- 不動産業が電子契約を活用するメリット
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:できる範囲が広がった今が導入のタイミング
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1. 不動産取引は「書面規制」が厳しかった
不動産取引は、扱う金額が大きく、消費者保護の要請も強いため、長らく書面での交付・説明が法律で義務付けられてきた分野です。
代表的なのが、宅地建物取引業法(宅建業法)が定める次の2つの書面です。
- 35条書面(重要事項説明書):契約前に、物件や取引条件の重要な事項を説明するための書面
- 37条書面(契約書面):契約締結後に交付する、契約内容を記した書面
これらはかつて、宅地建物取引士の記名・押印と紙での交付が前提でした。そのため、他の業界で電子契約が広がっても、不動産だけは「書面が必須だから無理」と取り残されがちだったのです。
しかし、この前提は法改正で過去のものになりました。
2. 宅建業法改正で電子化が解禁された経緯

転機は、デジタル社会の形成を進める一連の法整備でした。2021年に成立したデジタル改革関連法を受け、押印義務や書面交付義務が幅広く見直され、その流れで宅建業法も改正されました。
2022年5月の改正がポイント
宅建業法の改正は、2022年5月18日に施行されました。これにより、
- 35条書面・37条書面について、宅地建物取引士の押印が不要に
- 相手方の承諾を得れば、これらの書面を電磁的方法(電子データ)で交付できるように
なりました。つまり、不動産取引の中核となる書面を、紙ではなく電子で完結させる道が開かれたわけです。
IT重説は段階的に拡大してきた
重要事項説明をオンラインで行う「IT重説」も、改正に先立って段階的に整備されてきました。まず賃貸取引で本格運用が始まり、その後、売買取引でも社会実験を経て本格運用に至っています。
書面の電子化(交付)とIT重説(説明)が組み合わさったことで、重要事項説明から契約締結までを非対面・オンラインで完結できる土台が整いました。
※ 電子化の対象書面や運用の詳細は、国土交通省のガイドライン等で最新の内容を確認してください。
3. 電子化できる主な書類
不動産取引で扱う書類のうち、電子化が可能になった主なものを整理します。
| 書類 | 電子化の可否 | 補足 |
|---|---|---|
| 重要事項説明書(35条書面) | 可能 | 相手方の承諾が前提 |
| 契約書面(37条書面) | 可能 | 押印不要・電磁的交付が可能 |
| 媒介契約書 | 可能 | 電磁的方法での交付が認められる |
| 賃貸借契約書 | 可能 | 一般の賃貸借は電子化可能 |
| 売買契約書 | 可能 | 印紙税削減メリットが大きい |
一方で、なお慎重な扱いが必要な類型もある
すべての不動産関連契約が無条件に電子化できるわけではありません。たとえば、
- 事業用定期借地契約:公正証書による作成が必要
- 定期借地契約・定期建物賃貸借契約:契約更新がない旨の説明など、書面または電磁的記録での所定の対応が求められる
こうした特殊な類型は、一般の賃貸借・売買とは別に、個別の要件を確認する必要があります。「不動産の契約は全部電子化できる」と一括りにせず、類型ごとに確認するのが安全です。
4. IT重説 — 重要事項説明のオンライン化

不動産の電子化を語るうえで欠かせないのが、IT重説です。これは、重要事項説明を、対面ではなくテレビ会議などのオンライン手段で行う仕組みです。
IT重説の基本的な流れ
- 重要事項説明書を、事前に相手方へ電磁的方法で送付(または交付)
- 宅地建物取引士が、テレビ会議等で相手方と接続
- 取引士証を画面で提示し、書面の内容を口頭で説明
- 相手方が説明を理解できる環境(映像・音声が双方向でやり取りできる状態)で実施
来店せずに重要事項説明を受けられるため、遠方の相手や多忙な相手との取引で威力を発揮します。
書面の電子交付と組み合わせる
IT重説(説明のオンライン化)に、35条書面・37条書面の電子交付を組み合わせれば、説明から契約締結までを一気通貫でオンライン化できます。来店・郵送・押印が前提だった一連の流れが、画面の中で完結します。
なお、IT重説を実施する際は、相手方が説明をきちんと理解できる通信環境かどうかを確認したうえで進めることが求められます。
5. 媒介契約・賃貸借契約の電子化
不動産事業者が日常的に扱う契約として、媒介契約と賃貸借契約があります。これらの電子化についても見ておきましょう。
媒介契約の電子化
物件の売買や賃貸を仲介する際に結ぶ媒介契約書も、電磁的方法での交付が認められています。専任媒介・専属専任媒介など契約形態を問わず、電子で締結・交付できます。
賃貸借契約の電子化
一般的な賃貸借契約は、電子化が可能です。賃貸は契約件数が多く、繁忙期には書類のやり取りが集中するため、電子化による効率化のインパクトが大きい領域です。
ただし、定期借家契約(定期建物賃貸借)については、契約更新がない旨を記した書面の交付・説明などの所定の対応が法律で求められます。電磁的記録による対応が認められる場面もありますが、一般の賃貸借とは別に要件を確認してください。
入居者・借主側のメリットも大きい
賃貸借の電子化は、貸主・管理会社だけでなく、借主側にとっても来店不要・郵送不要のメリットがあります。遠隔地から引っ越してくる入居者にとって、契約のために何度も足を運ぶ負担が消えるのは大きな利点です。
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6. 電子化の注意点
電子化が解禁されたとはいえ、押さえておくべき注意点があります。
注意1:相手方の承諾が前提
35条書面・37条書面などを電磁的方法で交付するには、相手方の承諾が必要です。相手が「紙で欲しい」と希望する場合は、紙で交付しなければなりません。承諾を得たことは、記録に残しておくのが安全です。
注意2:相手が出力・保存できる形式に
電磁的方法で交付する場合、相手方がファイルを出力(印刷)・保存できる形式で提供する必要があります。閲覧しかできない形ではなく、PDFなど手元に残せる形式が求められます。
注意3:IT重説の通信環境
IT重説では、相手方が説明を十分に理解できる双方向の映像・音声環境を確保する必要があります。通信が不安定なまま進めると、説明義務を果たしたといえなくなるおそれがあります。
注意4:電子化できない類型の確認
前述のとおり、事業用定期借地契約のように公正証書が必要な類型や、定期借家のように所定の書面対応が求められる類型があります。取り扱う契約がこれに当たらないか、事前の確認が欠かせません。
注意5:本人確認とセキュリティ
不動産は金額が大きく、なりすましのリスクへの備えが重要です。本人確認の仕組みや、電子署名・タイムスタンプといった改ざん防止策を備えたサービスを選ぶことが、トラブル防止につながります。
7. 不動産業が電子契約を活用するメリット
不動産業は、他業種と比べても電子契約の恩恵が大きい分野です。理由を整理します。
メリット1:印紙税の削減効果が大きい
不動産の売買契約書や建設工事の請負契約書など、不動産関連の契約は印紙税が高額になりがちです。電子契約は紙の文書ではないため、原則として印紙税がかかりません。1件あたりの削減額が大きいため、効果を実感しやすい業種です。
メリット2:来店・郵送の負担がなくなる
契約のたびに来店してもらう、書類を郵送して返送を待つ——この手間がなくなります。遠方の顧客や多忙な顧客との取引がスムーズになり、機会損失も減らせます。
メリット3:繁忙期の事務負担を平準化
賃貸の繁忙期は、契約書類のやり取りが一気に集中します。電子化すれば、印刷・封入・郵送・ファイリングといった事務作業が大幅に減り、繁忙期のボトルネックを解消できます。
メリット4:契約書類の検索・管理が楽になる
物件・顧客・契約日などで横断検索できるため、過去の契約を探す手間が消えます。更新時期のアラート機能を使えば、賃貸借契約の更新漏れも防げます。
メリット5:重要事項説明の記録が残る
IT重説と電子交付を組み合わせれば、説明の実施記録や交付記録が電子的に残ります。「いつ、何を、どう説明・交付したか」を後から確認しやすくなり、トラブル時の備えになります。
8. よくある質問(FAQ)
Q1. 重要事項説明書(35条書面)は本当に電子化してよいのですか?
A. はい。2022年5月施行の宅建業法改正により、相手方の承諾を得れば電磁的方法で交付できます。あわせてIT重説で説明をオンライン化することも可能です。
Q2. 売買契約も電子契約でできますか?
A. 一般の不動産売買契約は電子化が可能です。印紙税の削減効果が大きいため、売買はとくに電子化メリットが大きい類型です。ただし個別の事情によるため、必要に応じて専門家に確認してください。
Q3. 相手が電子契約を希望しない場合はどうなりますか?
A. 電磁的交付は相手方の承諾が前提です。相手が紙を希望する場合は、紙で交付する必要があります。無理に電子化を押し付けることはできません。
Q4. 定期借家契約も電子化できますか?
A. 定期借家契約は、更新がない旨の説明・書面交付など所定の対応が求められます。電磁的記録による対応が認められる場面もありますが、一般の賃貸借とは要件が異なるため、個別に確認してください。
Q5. IT重説に特別な機材は必要ですか?
A. 双方向で映像・音声をやり取りできるテレビ会議環境が必要です。取引士証を画面で提示でき、相手が説明を十分に理解できる通信品質を確保することが求められます。
Q6. 電子化すると、後で「言った・言わない」のトラブルは増えませんか?
A. むしろ減らせる場合が多いです。IT重説や電子交付では、実施・交付の記録が電子的に残るため、後から経緯を確認しやすくなります。
Q7. 取引士の押印は本当に不要になったのですか?
A. はい。改正により、35条書面・37条書面における宅地建物取引士の押印は不要になりました。記名による対応に変わっています。
9. まとめ:できる範囲が広がった今が導入のタイミング
ここまで、不動産 電子契約について、電子化できる範囲と注意点を解説してきました。要点を整理します。
- 宅建業法改正(2022年5月施行)で、35条書面・37条書面の電子化が解禁された
- IT重説と電子交付を組み合わせれば、説明から締結までオンラインで完結できる
- 媒介契約・賃貸借契約・売買契約なども電子化が可能
- 電子化には相手方の承諾が前提で、出力・保存できる形式での提供が必要
- 事業用定期借地・定期借家など、個別要件の確認が必要な類型もある
かつて「書面規制が厳しいから無理」と言われた不動産取引も、いまや電子契約で進められる時代です。印紙税削減・来店不要・事務負担の軽減など、不動産業はとりわけ電子化の恩恵が大きい分野でもあります。
「対応できる範囲が広がったのはわかった。あとは実際に試してみないと感覚がつかめない」——そう感じたら、まずは件数の多い契約から1件、電子で送ってみるのが近道です。
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