ムスビサイン
電子契約の導入・運用

電子契約の社内稟議の通し方|稟議書の記載例と、決裁者・情シス・経理への返し方

電子契約の社内稟議の通し方を、稟議書の欄ごとに整理しました。目的・費用・法的根拠・リスクと対策に何を書くか、決裁者や情シス・経理から出る反論への返し方、そのまま写せる記載例まで、官公庁の資料と導入事例の実費データで具体的に示します。

公開日:

契約書の印刷と封入をしながら、電子契約に切り替えたいと何度も思っている。サービスの比較まではひとりで進められても、決めるのは自分ではありません。稟議書を書いて上に出さないと、話はそこで止まります。

困るのは、目的の欄に何を書けば「業務が楽になるから」で終わらずに済むのか、費用対効果の欄にどの数字を並べれば決裁者が判断できるのか、そこが誰も教えてくれないことです。

この記事では、稟議書の欄ごとに何を書くかの型、決裁者・情シス・経理・取引先から出る反論に返す一文、そして空欄を埋めるだけの記載例を渡します。読み終えたら、その日のうちに起案できます。

この記事の結論

  • 稟議書は「件名・導入の目的・現状の課題・費用と効果・比較検討・リスクと対策・スケジュール」の7欄で決まる。各欄に何を書くかは最初の章の表にまとめた
  • 「導入の目的」欄は社内の不満ではなく社外の事実で書く。日本政策金融公庫総合研究所の調査(デジタル化の方針で「まったく取り組んでいない」以外を選んだ企業に質問)では、従業者49人以下の電子契約システム導入率は24.4%
  • 「費用と効果」欄は紙の1通あたりを積み上げる。郵便110円、一般書留は基本料金に480円。ムスビサインが取材した14社のうち紙を経験した13社では、導入後200円未満が12社
  • 法的根拠は「リスクと対策」欄に3行で書く。民法522条2項、民事訴訟法228条4項、電子署名法3条を引く
  • 反対は決裁者・情シス・経理・取引先の4方向から来る。想定問答表を先に稟議書へ入れておこう

目次

  1. 稟議書の7つの欄に、電子契約なら何を書くか
  2. 「導入の目的」欄|社内の不満ではなく、社外の事実で書く
  3. 「費用と効果」欄|紙のままの1通いくらを積み上げる
  4. 「法的根拠」欄|「電子で本当に有効なのか」を3行で潰す
  5. 「リスクと対策」欄|情シス・経理・取引先の反対に先回りする
  6. 「スケジュール」欄|稟議で決めることと、通ってから作る社内規程
  7. そのまま写せる稟議書の記載例
  8. 差し戻されたときに、どの欄に何を足すか
  9. 電子契約の社内稟議に関するよくある質問

1. 稟議書の7つの欄に、電子契約なら何を書くか

ここでは、稟議書のどの欄に何を書くかの全体像を先に渡します。「電子契約 社内稟議の通し方」と検索して探しているのは、この7つの欄に何を書くかです。稟議は社内の制度なので、この記事で参照している条文には稟議書の様式についての定めはありません。下の7欄はムスビサイン編集部の整理であって、法令上の様式ではありません。

稟議書の欄 電子契約のときに書く内容 根拠に使うもの
件名 「電子契約サービスの導入について」に、対象の契約類型と開始時期を添える 自社の契約類型
導入の目的 社外で何が起きているかを1行、社内で何を下げるのかを2行 日本政策金融公庫総合研究所の調査ほか
現状の課題 1通あたりの実費と月間通数、締結までの日数を、自社の記録から数えて書く(作業時間の欄は空欄でよい) 自社の送付控えと郵送記録
費用と効果 紙の1通あたり単価×月間通数と、サービス利用料を並べる 国税庁の印紙税額表、日本郵便の料金
比較検討 方式(立会人型か当事者型か)と、選定の確認項目への回答 電子署名法第3条関係のQ&A
リスクと対策 法的有効性・セキュリティ・電子帳簿保存法・取引先の4方向を想定問答で 押印についてのQ&A、電子帳簿保存法
スケジュール 決裁ルートの所要日数、規程の整備担当と期限、最初の1通を送るまで 自社の決裁ルート

自社の稟議様式がこの7つと違う欄立てでも、書き直す必要はありません。7つの情報が様式のどこかに入っていれば足ります。決裁者が読む順序は「なぜやるのか」「いくらかかっていくら減るのか」「何が危ないのか」の3つで、欄の名前が違っても知りたいことは変わらないからです。

2. 「導入の目的」欄|社内の不満ではなく、社外の事実で書く

社内の不満は、決裁者にとっては担当者の感想であって、判断材料になりません。社外で何が起きているかを1行置いてから、社内で何を下げるのかを書きます。

社外の事実として使えるのが、電子契約の利用状況を尋ねた統計です。日本情報経済社会推進協会とアイ・ティ・アールの企業IT利活用動向調査2026は、電子契約の利用率について、2026年調査で80.2%となり、2025年調査の78.3%から上昇して初めて8割を超えたと分析しています。2025年調査では、対象は従業員50名以上の国内企業に勤務する役職者で、有効回答数は1,110件(1社1人)でした。

読者の会社や取引先がこの母集団に入っているとは限りません。

そこで、従業者49人以下を含む調査を並べます。日本政策金融公庫総合研究所の調査では、従業者49人以下の企業で電子契約システムを導入しているのは24.4%でした。同じ調査で、従業者100人以上の企業の導入率は27.3%です。この図は、デジタル化の取り組み方針を尋ねた設問で「まったく取り組んでいない」以外を選んだ企業に対して聞いたものなので、49人以下の全企業を分母にした数字ではありません。

この2つの数字は、「電子契約は大きい会社のものだ」という反論に、同一の調査の中で返すために使えます。49人以下でも100人以上でも、導入率の水準は近いところにあります。

導入していない側の数字も並べておくと、稟議書の説得力が変わります。デジタル庁が公表した質問票調査のQ13では、回答した企業が主導する契約で相手方に用いることを求める電子契約システムについて「導入していない」が199社・43.7%、「立会人型システム」が167社・36.7%となっています(複数回答のため合計は100%を超えます)。

期間は2022年2月1日から2022年2月28日でした。デジタル庁の資料は、上場企業を多く含む母集団によるもので、非上場企業や中小企業における実態は本調査に反映されていない可能性があると注記しています。

稟議書に書く「電子契約 導入理由」は、社外の事実だけでは断定できません。だからこそ、目的欄は「調査ではこう分析されている」と「自社の取引先ではこうだった」を分けて書きます。自社側の1行は、直近の契約で電子契約を求められた件数を数えれば、その日のうちに書けます。

方式が2つあることも、目的欄で軽く触れておきます。企業IT利活用動向調査2025では、立会人型は4年間で大きな変化は見られないが徐々に割合が低くなっており、当事者型は2025年調査で28.5%と調査上最も大きな割合になったと分析されています。どちらを選ぶかは比較検討欄の話なので、目的欄では「方式が2種類あり、比較検討欄で選定理由を述べる」と書けば十分です。

「電子契約 導入目的」の欄は、次の3行で組み立てましょう。

目的欄の3行

1行目(社外):日本政策金融公庫総合研究所の調査では、従業者49人以下の企業で電子契約システムを導入しているのは24.4%、100人以上では27.3%である(デジタル化の取り組み方針で「まったく取り組んでいない」以外を選んだ企業に尋ねたもの)。当社でも、直近◯か月で取引先◯社から電子での締結を求められた。

2行目(社内):契約1通あたりの実費を下げ、締結までの日数を短縮する。金額と日数の根拠は費用と効果の欄に記載する。

3行目(範囲):◯◯契約・△△契約を対象に、20XX年X月から順次切り替える。全社一斉の切替えは行わない。

3. 「費用と効果」欄|紙のままの1通いくらを積み上げる

費用対効果を「明確に」と言われたときに求められているのは、総額ではありません。1通あたりの単価を積み上げて、月間通数を掛けた数字です。決裁者が費用の欄を厳しく見るのは、読者の会社に限った話ではありません。2025年版中小企業白書は、DXに向けた取組を進めるに当たっての問題点について、いずれの取組段階でも「費用の負担が大きい」または「DXを推進する人材が足りない」と回答する事業者の割合が高いと記載しています。

紙のままの1通あたりを、単価で積み上げる

紙で1件を締結すると、契約書2通の印刷と封入があり、郵送と返送で1往復ぶんの費用がかかります。単価は次のとおりです。

費目 単価 出所
収入印紙(請負に関する契約書) 契約金額1万円以上100万円以下は200円、500万円を超え1,000万円以下は1万円、契約金額の記載のないものは200円 国税庁タックスアンサーNo.7102
収入印紙(継続的取引の基本となる契約書) 1通につき4,000円 国税庁タックスアンサーNo.7104
郵便(25g以下の定形郵便物) 110円(2024年10月1日の改定で84円から変更) 日本郵便「郵便料金の改定および新料額の普通切手の発行などについて」
一般書留 基本料金に480円が加算(損害要償額10万円まで) 日本郵便「国内の料金表(オプションサービス)」
簡易書留 基本料金に350円が加算(損害要償額5万円まで) 同上
配達証明 差出時に依頼する場合、基本料金に350円が加算 同上
封筒・印刷代 自社の実費を書く 自社の購買実績

書留や配達証明を勧めているわけではありません。自社がいま実際に使っている送り方の行だけを選んで、単価を埋めてください。契約書の重量や封筒のサイズによっては定形外の料金になるので、直近の郵送分の実額で確かめると確実です。印紙税額は契約の種類と記載金額で変わるため、自社の主力の契約金額帯にあたる行を、国税庁の税額表から拾い直します。

業務委託の基本契約を結んでいる場合は、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)の行も見てください。国税庁のタックスアンサーNo.7104は、税額を1通につき4,000円とし、契約書に記載された契約期間が3か月以内であり、かつ更新の定めのないものは除かれると説明しています。除外されるのはこの2つを両方満たすときだけです。自社の契約書がこの文書に当たるかどうかの判定は、業務委託契約書の印紙税の考え方にまとめています。

電子契約に切り替えた場合の印紙は、1行で足ります。国税庁の質疑応答事例は、印紙税の課税対象となるのは課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれないとしています。理由の詳細は電子契約に収入印紙がかからない根拠で解説しています。

稟議書に入れる数字は、測るのではなく数える

現状の課題欄に書く数字は、業務量を新しく調査しなくても出せます。自社の記録を数えるだけなので、今日中に埋まります。

  • 月間通数:郵便で出した契約書の送付控え、または切手や封筒の購入記録を数える
  • 締結までの日数:契約書に書いた日付と、返送された封筒の消印の差を引き算する
  • 1通あたりの実費:上の単価表の該当行を足し、封筒代と印刷代を自社の購買記録から足す

作業時間だけは、記録を数えて出せる数字ではありません。稟議書の時間の欄は空欄のままにしてかまいません。時間は決裁後に測る取り決めにして、スケジュール欄に「決裁後◯か月時点で1通あたりの作業時間を測定する」と書けば足ります。

効果の欄には、実費・時間・日数の3つを分けて書く

効果を1つの数字にまとめると、内訳を聞かれたときに答えられません。実費・作業時間・締結までの日数は、それぞれ別の理由で動くので、分けて書きます。

まず実費です。大きく減るのは、1通ごとに毎回かかっていた実費です。印紙・郵送料・封筒・印刷代の工程自体が発生しなくなるからです。

ムスビサインが取材した14社のうち、紙での運用を経験していた13社では、紙のころの1通あたり実費が1,000〜2,000円が5社、500〜1,000円が5社、200〜500円が3社でした。導入後にこれが200円未満になったのが12社です。うち1社は他社の電子契約サービスを使っていたときの測定値で、ムスビサイン利用時の値は取材していません。この金額は収入印紙・郵送料・封筒・印刷代の合計であり、サービス利用料は含みません。

この13社には、後述する作業時間と締結日数では母数から外している1社が含まれます。実費だけ母数の取り方が違う点は、稟議書に転記するときに添えておいてください。

別の測り方でも、同じ方向の数字が公表されています。奈良県生駒市が公表した電子契約の実証実験では、協力事業者側の契約事務費用が92%減、作業時間が89%減と見込まれています。これは生駒市で締結される契約件数(令和2年度実績2,382件)をもとにした試算であって、実測値ではありません。自治体の契約が母数なので、1通あたりに割り戻して自社に当てはめることはできません。

次に作業時間です。ムスビサインの取材で、時間の前後比較に使える母数は、14社のうち、紙での運用を経験していて時間を取得できた11社です。紙のころは15〜30分が4社、30分〜1時間が4社、1〜2時間が3社でした。導入後は5分未満が5社、5〜15分が4社、15〜30分が2社です。

ムスビサインの個社の明細を見ると、1〜2時間かかっていた会社が5〜15分になっているなど、11社すべてが1区間以上短い側へ動いています。ただし設問は区間で聞いているので、15〜30分から5〜15分へ1区間だけ動いた社も含まれます。

最後に締結までの日数です。日数の前後比較に使えるムスビサインの母数は、14社のうち、紙未経験1社と他社サービス利用時に測定した1社を除く12社です。

紙のころは1〜2週間が4社、3〜5営業日が3社、3〜4営業日が2社、2週間以上が2社、1〜2営業日が1社でした。導入後に当日または1〜2営業日になったのは12社中10社で、残る2社は導入後も1〜2週間かかっています。なお、この12社のうち4社では、beforeが「送付してから相手方の署名・押印が返ってくるまで」、afterが「送信してから相手方の署名が完了するまで」で設問が異なります。

紙のころ2週間以上かかっていた会社のうち1社は導入後も1〜2週間で、もう1社も紙のころ2週間以上、導入後も1〜2週間のままです。この2社が縮まなかった理由は、業種固有のものではなく、相手方の決裁に依存すると整理されています。相手の社内承認にかかる時間は、電子契約にしても短縮されません。稟議書には「自社側の作業は減るが、相手方の決裁に依存する部分は短縮されない」と書いておきましょう。

もうひとつ落とせない事実があります。ムスビサインの取材先には、紙のころから1〜2営業日で回っていた会社が1社あり、その会社は導入後に当日になりました。紙のままでも日数で困っていない会社はあります。日数を唯一の理由にせず、実費と、決裁後に測る作業時間もあわせて書きましょう。

サービス利用料と、補助制度の扱い

サービス利用料は、効果の数字から差し引く形で書きます。金額は月間の通数で変わるので、直近の契約件数を数えて、検討中のサービスの料金ページで自社の通数に当てはめてください。稟議書には「月◯通の想定で月額◯◯円」と、通数と金額をセットで書きます。通数の根拠は、過去数か月の送付控えを数えれば出せます。

補助制度に触れておきたい場合は、制度の存在までにとどめます。中小企業庁と中小機構のデジタル化・AI導入補助金2026の通常枠は、補助率が1/2以内または2/3以内とされ、補助額は1プロセス以上で5万円以上150万円未満とされています。

補助対象経費にはソフトウェア購入費とクラウド利用料(最大2年分)が挙げられています。ただし通常枠は事務局に事前登録されたITツールから選ぶ仕組みなので、検討中のサービスが対象かどうかは事務局のサイトで確認してから書いてください。

4. 「法的根拠」欄|「電子で本当に有効なのか」を3行で潰す

法的根拠は独立した欄ではなく、「リスクと対策」欄の先頭に書く3行です。条文3つで閉じられるので、3行で足ります。

引く条文は次の3つです。

何を言いたいか 引く条文 その条文が定めていること
契約は紙でなくても成立する 民法522条2項 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない
紙の押印には推定が働く 民事訴訟法228条4項 私文書は、本人またはその代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定する
電子署名にも推定が働く 電子署名法3条 本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する

この括弧書きを落とさないでください。電子署名であれば必ず推定が働くわけではなく、本人だけが行うことができることとなるものに限る、という限定が条文に置かれています。稟議書に転記するときも括弧の中まで含めて写すと、後半の選定チェックリストと話がつながります。

電子署名という言葉の定義もあわせて押さえておくと、質問が出たときに返せます。電子署名法2条1項は、電子署名を、当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること、および改変が行われていないかどうかを確認することができるものであることの両方に該当する措置と定義しています。条文の全体像は電子契約の法的効力を支える法律にまとめています。

「ハンコがないと不安だ」と言われたときは、政府の文書の言葉をそのまま引くのがいちばん早い返し方です。内閣府・法務省・経済産業省の押印についてのQ&Aは、私法上、契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面の作成およびその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き必要な要件とはされていないとしています。同Q&Aは、テレワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることにこだわらず、不要な押印を省略したり、「重要な文書だからハンコが必要」と考える場合であっても押印以外の手段で代替したりすることが有意義であるとも述べています。

自社が押しているのが認印であれば、もう1文を足せます。同Q&Aは、押印されたものが認印である場合、印影と作成名義人の印章の一致を相手方が争ったときに、その一致を証明する手段が確保されていないと、成立の真正について「二段の推定」が及ぶことは難しいと思われるとしています。

あわせて同Q&Aは、文書の成立の真正を証明する手段を確保するための立証手段のひとつとして、電子署名や電子認証サービスの活用を挙げています。「政府が電子契約を推奨している」とは書かないでください。挙げられている立証手段のひとつ、というところまでが正確な書き方です。

法令が書面を要件としている契約類型もあります。自社の契約がそれに当たるかどうかの判断は、稟議書で断定せず、顧問の弁護士に確認したうえで対象範囲を決めましょう。

5. 「リスクと対策」欄|情シス・経理・取引先の反対に先回りする

反対は、決裁者・情シス・経理・取引先の4方向から来ます。この欄には、出てから返すのではなく、出る前の想定問答を貼っておきます。稟議の場で初めて聞かれると、その場で答えられずに持ち帰りになります。

稟議書に貼れる想定問答表

誰から 出てくる反論 返す一文 根拠の正式名称
決裁者 ハンコを押さないで大丈夫なのか 私法上、契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面の作成およびその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き必要な要件とはされていません 内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」
決裁者 裁判になったときに証拠として弱いのではないか 紙の押印は民事訴訟法228条4項、電子署名は電子署名法3条に、それぞれ真正な成立の推定が置かれています。電子署名法3条は、本人だけが行うことができることとなるものに限る、と限定しています 民法、民事訴訟法、電子署名及び認証業務に関する法律
決裁者 うちは認印だから今のままで問題ない 認印の場合、印影と作成名義人の印章の一致を相手方が争ったときに、その一致を証明する手段が確保されていないと、成立の真正について「二段の推定」が及ぶことは難しいと思われる、とされています 内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」
情シス 事業者が署名するのに、当社が契約したことになるのか 技術的・機能的に見てサービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はサービス提供事業者ではなくその利用者であると評価し得る、とされています 総務省・法務省・経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」
情シス セキュリティの水準をどう確かめたのか 利用者と事業者の間のプロセスと、事業者内部のプロセスの両方で十分な水準の固有性が満たされている必要があり、システムやサービス全体のセキュリティを評価して判断されるとされています。確認項目は電子署名法第3条関係のQ&Aが挙げる4項目を使います デジタル庁・法務省「電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」
経理 電子帳簿保存法の要件はどうするのか 電子帳簿保存法7条が電磁的記録の保存を定めており、真実性を確保するための4つの条件のうち、当社は◯番目の方法で満たします 電子帳簿保存法、国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」
経理 検索できるシステムを別に買う必要があるのではないか 個人事業者は前々年、法人は前々事業年度の売上高が5,000万円以下の場合などには、検索機能の確保は不要とされています。税務調査の際にダウンロードの求めに応じられるようにしていることが前提です 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」
取引先 紙のほうが安心だと言われたらどうするのか 最初の数件は説明の手間が出る前提で進めます。一度断られた会社が、導入後の反応を「最初は戸惑いがあったが問題なかった」と回答した例があります ムスビサインの導入事例

情シス向けの選定チェックリスト

情シスの反対に対しては、デジタル庁・法務省の電子署名法第3条関係のQ&Aが公的な評価軸を示しています。

事業者内部のプロセスについては、同Q&Aが例として次の4項目を挙げています。言い換えずにそのまま稟議書へ転記してください。サービスの担当者に聞くときも、この文言のまま尋ねると答えが返ってきます。

  • アクセスや操作ログ等が正しく適切に記録され、かつ、改ざんや削除ができない仕様とされていること
  • 運用担当者による不正ができないシステム設計、運用設計がされていること
  • 正しく適切に運用されていることが監査等で確認するとされていること
  • 必要に応じてログや監査等の記録やシステム仕様書等が提出できるよう十分な期間保存するとされていること

利用者と事業者の間のプロセスについては、同Q&Aは、2要素認証を行っている場合は十分な水準の固有性を満たすと評価され得るとしつつ、2要素認証が必須ということではなく、他の方法によることを妨げるものではないとしています。ここは「2要素認証があるか」ではなく「本人しか行えない仕組みになっているか」を確認する項目として書きます。

そして、この欄でいちばん大事な歯止めがあります。同Q&Aは、あるサービスが電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するか否かについては、個別の事案における具体的な事情を踏まえた裁判所の判断に委ねられるべき事柄であるとしています。稟議書に「法的に問題ありません」と断定して書かないでください。

書き方は「Q&Aが示す評価軸に照らして確認した」までにとどめます。セキュリティ面の見方は電子契約のセキュリティで確認することで解説しています。

比較検討欄に写せる、ムスビサインの場合の事実

上の4項目に答え合わせをするために、ムスビサインの場合の事実を並べておきます。比較検討欄は、方式・締結時に付与するもの・取引先側の負担・原本の置き場所の4項目を各サービスぶん埋めれば形になります。利用料の行は、通数が決まってから別に見積もります。

確認項目 ムスビサインの場合
方式 立会人型(事業者署名型)の電子署名で、電子署名法第3条に対応
締結時に付与するもの PDF全体へAATL証明書による電子署名と認定タイムスタンプを付与
取引先側の負担 受領者はアカウント登録が不要で、メールのリンクから登録なしで署名できる
原本の置き場所 サーバーに契約書を残さない設計で、原本は利用者の手元に保管する。フリーとスターターのプランでは締結後1週間で自動削除し、ビジネスプランでは7年保管も選べる
サービス利用料 読者の会社の月間通数から料金プランで見積もる

原本の行は、経理から「1週間で消えたら保存義務はどうなるのか」と聞かれる箇所です。原本を手元に置く前提なので、保存先は自社のファイルサーバーかクラウドストレージだと稟議書に書きます。方式の違いそのものを比較検討欄で説明したい場合は、立会人型と当事者型の違いで整理しています。

経理には、電子帳簿保存法の「どれで満たすか」を1つ書く

経理から出るのは、電子帳簿保存法にどう対応するのかという質問です。答えは、4つの条件のうちどれを選ぶかを1つ決めて書く、です。電子帳簿保存法7条は、所得税および法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には財務省令で定めるところにより電磁的記録を保存しなければならないと定めており、その具体的な方法が施行規則で選択式になっているからです。

国税庁の電子帳簿保存法一問一答は、電子的に受け取ったり送付した請求書や領収書等について、真実性を確保する観点から、次のいずれかの条件を満たす必要があるとしています。稟議書には番号で書けるように、そのまま並べます。

  1. タイムスタンプが付与されたデータを受領する
  2. 速やかに(またはその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付す
  3. 訂正削除の記録が残るシステム、または訂正削除ができないシステムでデータの授受と保存を行う
  4. 訂正削除の防止に関する事務処理の規程を定め、備え付け、運用する

4番目については、同法施行規則4条1項が、正当な理由がない訂正および削除の防止に関する事務処理の規程を定め、それに沿った運用を行い、備付けを行うことを挙げています。締結時に認定タイムスタンプが付与されるサービスを使うなら、稟議書の欄には1番目を選んだと書けます。その場合、4番目の事務処理規程を新たに作る作業は発生しません。どれを選ぶかの最終確認は、顧問の税理士か所轄の税務署に取ってください。

あわせて同一問一答は、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存等に当たっては、真実性や可視性を確保するための要件を満たす必要があるとしています。検索機能の確保を理由に「高いシステムが要る」と言われたときは、条件を確認します。同一問一答は、個人事業者は前々年、法人は前々事業年度の売上高が5,000万円以下の場合などには、検索機能の確保は不要としています。

ただし税務調査の際にダウンロードの求めに応じられるようにしている必要があり、免除されるのは検索機能の確保だけで、保存義務そのものは残ります。保存の実務は電子帳簿保存法における契約書の保存要件にまとめています。

取引先の反対は、起きない前提で書かない

取引先については、「問題は起きません」と書かないでください。起きる前提で、どう進めるかを書きます。

ムスビサインの導入事例14社のうち、取引先の反応として「断られたことがある」と答えたのは1社です(この14社には、他社の電子契約サービスを使っていたときの反応を答えた1社が含まれます)。ただし別の1社については、取引先の抵抗を予測して見送っていたものの、実際に提案して断られた経験があったかどうかは取材していません。「断られたのは1社だけだから、ほかは受け入れられた」とは読めない数字です。

一度断られた側の話が参考になります。静岡県の卸売業の事例では、取引先に一度話をしたら「紙のほうが安心」と言われ、そのまま紙と郵送を続けていました。「なんとなく難しそう」で止まったのではなく、実際に断られたうえで、いったん引き下がっています。

この会社の取引先には年配の方が多く、しかも毎回違う相手という条件でした。それでも導入後の回答は「戸惑いがなかった」ではなく「最初は戸惑いがあったが問題なかった」です。

この1社で起きたことなので、断られても押せば通ると一般化はできません。詳細は卸売業の導入事例で読めます。

稟議書には、相手側の手間をどう減らすかまで書きます。ムスビサインの場合、受領者はアカウント登録が不要で、メールのリンクから登録なしで署名できます。ただしそれで取引先が必ず応じるわけではないので、「応じない相手とは紙を続ける」という但し書きを1行入れておきましょう。断られたときの進め方は取引先に電子契約を断られたときの対処法で解説しています。

6. 「スケジュール」欄|稟議で決めることと、通ってから作る社内規程

スケジュール欄でつまずくのは、社内規程を先に作るのか後に作るのかという点です。稟議で決めるのは「誰がいつまでに作るか」までで、規程そのものは通ってから作ります。整備を稟議の前提にすると、その作業の工数についてもう一度稟議が必要になり、話が進まなくなるからです。

ルールの整備が後回しになりやすいことは、数字にも出ています。デジタル庁が公表した質問票調査のQ12は、印章管理規程(どの印鑑をどの部署が管理するか、誰を管理責任者とするかのルール)の有無を尋ねたもので、「明文の社内規程として存在」する会社が434社・95.4%でした。一方でQ15は電子署名に関する管理規程の有無を尋ねており、明文のものがあるのは173社・38.0%で、「存在しない」が167社・36.7%です。

この数字を出した質問票調査は、商法総則・商行為法研究会が2022年2月1日から2022年2月28日にかけて実施したものです。デジタル庁の資料は、上場企業を多く含む母集団によるもので、非上場企業や中小企業における実態は本調査に反映されていない可能性があると注記しています。

ハンコのルールは整っているのに、電子署名のルールは整っていない。この差は、稟議の場で聞かれます。だからこそ、スケジュール欄に「電子署名の管理規程を、誰が、いつまでに作るか」を先に書いておきます。

立ち上げにかかる時間の目安も渡せます。ムスビサインの導入事例には、申し込みから最初の1通を送信するまでの立ち上げ時間があります。これは稟議が下りるまでの日数ではありません。前後比較ではない単一値で、14社のうち値があるのは13社です。

ムスビサインの取材による内訳は、10〜30分が4社、30分〜1時間が4社、半日が1社、1日以上が4社でした。1日以上かかった4社のうち1社は契約担当3〜5名の法人で社内調整を含むと注記され、もう1社も契約担当6名以上の法人で社内調整を含むと注記されています。契約を扱う人が複数いる会社は、社内の説明と役割決めの時間を別に見込んでください。

稟議が下りるまでに何日かかるかは、自社の決裁ルートで決まります。ここには目安になる統計がないので、スケジュール欄には自社の決裁ルートの所要日数を書きます。過去の稟議が起案から決裁まで何日かかったかを、総務か経理に聞けば出てきます。

時期 やること 担当
起案から決裁まで 自社の決裁ルートの所要日数を記入する 起案者
決裁後すぐ 対象の契約類型と担当部署を確定し、最初の1通を送る 起案者
決裁後◯か月以内 電子署名の管理規程を整備する ◯◯部
決裁後◯か月以内 電子帳簿保存法の保存方法を4つの条件から確定し、原本の保存先を決める 経理
決裁後◯か月時点 1通あたりの実費・作業時間・締結日数を測り、効果を報告する 起案者

この表に入れていないものがひとつあります。契約1件ごとの申請と承認を社内でどう回すかは、稟議が通ってから設計する別の話です。締結の手前にある社内承認まで電子化する話は電子契約の社内承認フローの作り方で扱っています。

7. そのまま写せる稟議書の記載例

ここまでの内容を、1枚の稟議書の形にまとめます。◯や△の部分に自社の数字と名称を入れるだけで、起案できます。

件名

電子契約サービスの導入について(対象:◯◯契約・△△契約、開始時期:20XX年X月)

導入の目的

日本政策金融公庫総合研究所の調査では、従業者49人以下の企業で電子契約システムを導入しているのは24.4%、従業者100人以上では27.3%である(デジタル化の取り組み方針を尋ねた設問で「まったく取り組んでいない」以外を選んだ企業に尋ねたもの)。規模による差は小さく、当社の規模でも選択肢になる。

当社でも直近◯か月で取引先◯社から電子での締結を求められており、対応の可否を都度判断している状態にある。

本件の目的は、契約1通あたりの実費を下げ、締結までの日数を短縮することにある。対象は◯◯契約・△△契約とし、全社一斉の切替えは行わない。

現状の課題

紙・郵送・押印での締結は、1通あたり◯◯円かかっている。締結までは◯営業日(契約書の日付と返送封筒の消印の差)で、月間の締結件数は◯通である(送付控えによる)。

担当者の作業時間は測定していない。決裁後に測定し、あらためて報告する。

収入印紙の税額判定、印刷と封入、郵送と返送の管理、返送されない場合の督促が、いずれも1通ごとに発生している。

費用と効果

現状:1通あたり◯◯円(内訳は収入印紙◯◯円、郵便110円、封筒・印刷代◯◯円)。月◯通で月額◯◯円、年額◯◯円。

導入後:紙の契約書を作成しないため、収入印紙と郵送の費用が発生しない。国税庁の質疑応答事例は、印紙税の課税対象となるのは課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれないとしている。サービス利用料は月◯通の想定で月額◯◯円、年額◯◯円。

参考:ムスビサインが取材した14社のうち、紙での運用を経験していた13社では、1通あたりの実費が導入後に200円未満になったのが12社である。うち1社は他社の電子契約サービスを使っていたときの測定値で、ムスビサイン利用時の値は取材していない。この金額は収入印紙・郵送料・封筒・印刷代の合計で、サービス利用料は含まない。

注記:締結までの日数のうち、相手方の決裁に依存する部分は短縮されない。ムスビサインの同じ取材でも、導入後に1〜2週間かかったままの会社が2社ある。

比較検討

電子署名の方式には立会人型(事業者署名型)と当事者型がある。当社は◯◯の理由で◯◯型を採用する。

選定にあたっては、デジタル庁・法務省の電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)が挙げる4項目、すなわちアクセスや操作ログ等の記録と改ざん・削除ができない仕様、運用担当者による不正ができない設計、監査等での確認、ログや記録の保存期間について各社に確認した。確認結果は別紙のとおり。

締結後の原本は当社の手元に保管し、保存先は◯◯とする。

リスクと対策

法的有効性:契約の成立に書面や押印は要件とされていない(民法522条2項)。裁判で成立が争われた場合の推定は、紙の押印が民事訴訟法228条4項、電子署名が電子署名法3条にそれぞれ置かれている。電子署名法3条は「本人だけが行うことができることとなるものに限る」と限定しており、あるサービスが同条の電子署名に該当するか否かは、個別の事案における具体的な事情を踏まえた裁判所の判断に委ねられるべき事柄であるとされている。当社としては上記4項目に照らして選定する。

電子帳簿保存法:電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存等では、真実性や可視性を確保するための要件を満たす必要がある。当社は真実性の要件について、4つの条件のうち1番目(タイムスタンプが付与されたデータを受領する)で対応する。

取引先:応じない取引先とは従来どおり紙で締結する。最初の数件は操作の説明に手間がかかることを前提に、担当者が電話で補足する。

社内規程:電子署名に関する管理規程を決裁後◯か月以内に整備する。担当は◯◯部とする。

スケジュール

決裁後◯日以内に契約と初期設定を行い、最初の1通を送信する。決裁後◯か月以内に電子署名の管理規程を整備し、原本の保存先を確定する。

決裁後◯か月時点で、1通あたりの実費・作業時間・締結日数を測定して報告する。作業時間が紙のころと変わらない場合は、紙の運用に戻す。

8. 差し戻されたときに、どの欄に何を足すか

差し戻しは否決ではありません。足りない欄がひとつ特定できれば、そこだけ書き足して再提出できます。差し戻しの理由は費用・リスク・時期のいずれかに寄るので、理由別に足す一文を用意しておきます。

費用で戻されたとき。総額しか書いていない状態から、単価と通数の内訳に書き換えます。1通あたりの単価を費目ごとに分解し、月間通数の根拠として過去数か月の送付控えを添えます。そのうえで、紙のままの年額とサービス利用料の年額を並べます。あわせて「効果が出なかった場合にどうするか」を1行足すと、判断のハードルが下がります。決裁後◯か月使って1通あたりの作業時間が変わらなければ紙に戻す、という撤退条件です。

リスクで戻されたとき。誰が何を心配しているのかを特定してから足します。情シスなら選定チェックリストの4項目への回答を、経理なら電子帳簿保存法の4つの条件のうちどれで満たすかを、決裁者なら押印についてのQ&Aの一文を、それぞれ該当欄に追記します。このとき「法的に問題ありません」と書き換えないでください。裁判所の判断に委ねられるという断りを残したまま、確認した軸と確認結果を書きます。

時期で戻されたとき。「今じゃない」と言われた場合は、対象範囲を狭めた案を出し直します。全社ではなく1部署、複数の契約類型ではなく1類型に絞ります。紙のままでも困っていない契約と、実費や日数で困っている契約を分けて、後者だけを対象にした稟議に組み替えます。範囲が小さくなるほど、費用も規程の整備も軽くなります。

理由が分からないまま戻されたとき。決裁者に、7つの欄のどれが足りなかったかを指してもらいます。「もう少し検討して」と言われたときに聞くべきなのは、検討の方向ではなく、どの欄の情報が足りなかったかです。欄を指してもらえれば、次の版で足すものが決まります。

9. 電子契約の社内稟議に関するよくある質問

Q1. 電子契約は義務化されるのですか。稟議書に書いたほうがよいですか。

A. 義務化を理由にする書き方は避けてください。この記事で参照している電子帳簿保存法7条が定めているのは、電子取引を行った場合に取引情報に係る電磁的記録を保存する方法までで、紙から電子契約への切替えを求めるものではありません。

理由は、稟議書に外部からの強制を理由として書くと、「では強制されるまで待とう」という判断を招くからです。一方で、電子でやり取りした契約書はデータのまま保存する必要があるため、紙に出力して保存するだけの運用は稟議書に書けません。書くべきなのは「電子でやり取りした分の保存方法を、4つの条件のうちどれで満たすか」です。

Q2. 電子契約の導入理由として、社内から出る反対にはどう備えますか。

A. 決裁者・情シス・経理・取引先の4方向を先に想定問答にして、稟議書に貼っておきます。反対が出てから返すのでは、決裁が1回分先送りになります。

理由は、方向ごとに聞かれる内容が違うからです。決裁者は押印と裁判での扱いを、情シスはセキュリティの評価軸を、経理は電子帳簿保存法の要件を、取引先は操作の手間を確認します。それぞれの返し方は、この記事の想定問答表にまとめています。

Q3. 費用対効果を明確にと言われました。何を書けばよいですか。

A. 1通あたりの単価を費目ごとに積み上げ、月間通数を掛けた金額を書きます。総額の見積もりだけでは判断できません。

理由は、決裁者が比べているのが「紙のままの年額」と「切り替えた場合の年額」だからです。2025年版中小企業白書も、DXに向けた取組の問題点として、いずれの取組段階でも「費用の負担が大きい」または「DXを推進する人材が足りない」と回答する事業者の割合が高いと記載しています。単価に分解して初めて、費用の話が判断できる形になります。

Q4. セキュリティは何を確認して稟議書に書けばよいですか。

A. 電子署名法第3条関係のQ&Aが挙げる4項目を、言い換えずにそのまま確認項目にします。アクセスや操作ログ等の記録と改ざん・削除ができない仕様、運用担当者による不正ができない設計、監査等での確認、ログや記録の十分な期間の保存の4点です。

理由は、この4項目が公表されている評価軸だからです。独自の観点を並べると、情シスと決裁者のあいだで基準がずれます。ただし同Q&Aは、該当するか否かは個別の事案における具体的な事情を踏まえた裁判所の判断に委ねられるべき事柄であるとしているので、稟議書には確認した事実だけを書きます。

Q5. 締結した契約書が1週間で自動削除されるサービスだと、電子帳簿保存法に対応できないのですか。

A. 原本を手元に保管する設計であれば、保存先を自社側に決めて稟議書に書きます。ムスビサインの場合、サーバーに契約書を残さない設計で、原本は利用者の手元に保管します。

理由は、電子帳簿保存法が求めているのが電磁的記録の保存であって、サービス提供事業者のサーバーに置くことではないからです。真実性の要件は4つの条件のいずれかで満たし、締結時にタイムスタンプが付与されるサービスであれば1番目を選べます。保存先(ファイルサーバーかクラウドストレージか)と保存期間を決めて、稟議書のリスクと対策欄に1行書いてください。

Q6. 電子帳簿保存法のために、検索できるシステムを買う必要がありますか。

A. 売上高の条件に当てはまれば、検索機能の確保は不要とされています。個人事業者は前々年、法人は前々事業年度の売上高が5,000万円以下の場合などが対象です。

理由は、国税庁の一問一答がその扱いを示しているからです。ただし税務調査の際にダウンロードの求めに応じられるようにしている必要があり、免除されるのは検索機能の確保だけで、保存義務そのものは残ります。稟議書には「保存はする、検索機能の確保は条件に当てはまるため不要」と、両方を書いてください。

Q7. 稟議が通らないときは、何から直せばよいですか。

A. 差し戻された理由が費用・リスク・時期のどれなのかを特定し、その欄だけを書き足して再提出します。全体を書き直す必要はありません。

理由は、決裁者が判断できなかった箇所を特定しないまま出し直すと、同じ場所で止まるからです。どの欄が足りなかったかを聞き、そこに数字か出所を1つ足すのが最短です。

まとめ:紙のまま続けるか、切り替えるかを、稟議書の1枚で決める

稟議書を書く作業は、そのまま「自社は紙のままでよいのか」を判断する作業でもあります。効果が金額と時間に出るのは、1通ごとに収入印紙・郵送料・封筒・印刷代と担当者の作業時間が毎回かかっている契約です。この条件に当てはまらない契約なら、切り替える理由は薄くなります。紙のまま続けると決めた場合も、自社の主力契約にかかる印紙税額と、1通あたりの郵送実費だけは数えておいてください。次に税額や料金が動いたときに、稟議を出し直すかどうかをその場で判断できます。

切り替えると決めた場合は、稟議が通ったあとの動き方が要ります。対象の契約類型を1つに絞り、最初の1通を送るところまでを、電子契約の始め方5ステップにまとめています。稟議書に書いた効果が本当に出たかは、切り替えたあとに1通あたりの実費・作業時間・締結日数をもう一度測れば確かめられます。

まずは月3件、無料で電子契約を試してみませんか

稟議書に書く数字は、実際に1通送ってみるのがいちばん早く埋まります。ムスビサインは、PDFをアップロードしてメールで送るだけで締結できる電子契約サービスです。

毎月3件まで無料のフリープラン

毎月3件分の送信枠を月初に付与します(繰り越しなし)。付与にはクレジットカードまたは電話番号(SMS認証)の登録が必要です。取引先のアカウント登録は不要で、相手はメールのリンクから署名するだけです。

👉 月3件無料で電子契約を試す(登録は最短1分)

社内向けの契約書や、金額の小さい契約から1通送ってみてください。稟議書の「現状の課題」と「費用と効果」の欄に入れる数字が、その日のうちに手元に揃います。


本記事は、印紙税額について令和8年4月1日現在の国税庁の公表資料、郵便料金について2024年10月1日改定後の料金、そのほか本文に示した官公庁の資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務相談・法律相談に代わるものではありません。自社の契約が書面を要件とする類型に当たるかどうか、印紙税額の判定、電子帳簿保存法への対応については、顧問の弁護士・税理士または所轄の税務署にご確認ください。

電子契約をはじめてみませんか?

毎月3件まで無料で契約書を送れます。
法的に有効な電子署名を、シンプルに。

今すぐ無料で始める